IPO銘柄の選別法と事例研究

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IPO銘柄選別法

  1. IPO市場の需給サイクル(サイクル把握とタイミング)
  2. 類似企業とのファンダメンタル比較(売上高、利益の伸びとPER)
  3. ベンチャーキャピタルの保有比率(ロックアップ)

IPO市場の需給サイクル(サイクル把握とタイミング)

  • IPOの市場環境には一定のサイクル(下図)があり、どのような優良銘柄でも割高感が台頭してるサイクルで組み入れたのでは良い結果は得られません。IPO市場の需給がどのサイクルにあるかを把握して割安感のあるときに組み入れます。

類似企業とのファンダメンタル比較(売上高、利益の伸びとPER)

  • IPO情報を提供してるサイトには、参考類似企業を上げてる所(TRADER’S WEBなど)があります。最近人気の高かったカカクコムとその類似企業の業績動向を比較してみました。

    類似企業 市場 売上高の伸び 利益の伸び PER 初値PER
    カカクコム マザ 234.7% 238.9% 76.2倍 266.8倍
    ヤフー JQ 187.6% 206.1% 102.6倍
    楽天 JQ 210.2% 228.8% 154.0倍
  • 業績(売上高、利益)の伸びが類似企業と比較して高いにも係わらず、PER(=株価/1株あたりの利益:どの位のプレミアムがついてるかの目安)が低いのがわかります。

    これは結構な利益を上げながら類似企業に比べ株価が安く評価されていることを意味します。類似企業からみて適正PER160倍と仮定すると初値予想は250万円(=公募価格120万円×160/76.2)となります。初値420万円はちょっと過熱気味でしょうか

ベンチャーキャピタルの保有比率(ロックアップ)

  • 公開前1年以内に株式を保有した者は株式公開後6ヶ月あるいは株式保有後1年の遅い日が到来するまで株式の売却が法律上出来ないルールにリクルート事件後なっておりこれをロックアップと呼びます。

  • ロックアップに拘束されないインサイダー(大株主:中心はベンチャーキャピタル)による大口売りが公開直後に集中し、新規公開企業の株価が急落するケースがあります。

    個人投資家がIPO銘柄を買うならベンチャーキャピタルの保有比率に留意しましょう。

  • また、キャピタルゲインを狙うインサイダーが保有する大量の株がロックアップされているなら売り圧力が控えているということであり株価の値上がりを当分の間期待できません。

新興市場の種類と売買方式比較

新興市場は、ベンチャー企業を中心とした将来性のある企業に、資金調達の場を提供することを目的とした市場です。

新興市場では、会社の将来性・ビジネスの新規性・競争優位性に重点をおいているため上場基準は緩いものとなっていますが、四半期決算の報告が義務付けられるなど、投資家に対する情報開示を積極的に行っています。

株式市場には、

  1. 取引所取引(上場取引)を扱う証券取引所
  2. 店頭取引(取引所以外で行われる取引)を扱うJASDAQ(ジャスダック)市場
  3. 未公開株式を扱うグリーンシート市場

があります。

(1)証券取引所は、全国に4ヶ所(東京、名古屋、札幌、福岡)にあり、各取引所には、東証はマザーズ、名証はセントレックス、札証はアンビシャス、福証はQボードという新興市場が開設されています。

しかし、東証マザーズ以外は上場企業数も少なく市場規模は小さなものとなっています。

(2)JASDAQ市場は、中小企業・中堅企業・ベンチャー企業に力をいれている店頭株式市場で、日本証券業協会が運営管理しています。

登録基準には、1号基準(中小企業・中堅企業)と2号基準(ベンチャー企業)があり、2号基準が東証のマザーズに近い位置の市場になります。

(3)グリーンシート市場は、未公開企業の株式を売買する場として日本証券業協会が開設した証券市場です。

証券取引所やJASDAQ市場での取引とは異なり、流通性が低い、価格の変動が大きい、企業の公開情報を迅速に入手しにくい、不測の損害を受ける危険性が高い、などのリスクが非常に高いことが特徴です。

JASDAQ、東証マザーズ比較

市場名 銘柄数 特徴 売買方式
JASDAQ(店頭)
(09:00-11:00)
(12:30-15:00)
943銘柄

指値のみ

・ジャスダック市場の登録基準には、1号基準と2号基準があります。
1号基準(中小企業・中堅企業)には、「公開直前期末純資産2億円以上、直前期の当期利益が黒字」という条件があり、新興企業にとっては非常に厳しい基準となっています。
・2号基準(ベンチャー企業)には、純資産や利益の額に条件はありませんが、四半期決算の報告が義務付けられています。
東証のマザーズに近い位置の市場で、マーケットメイク制度があるのも特徴です。
◇オークション銘柄
・板寄せ方式
・ダッチ方式(IPO株)

◇マーケットメイク銘柄
・マーケットメイク方式

東証マザーズ
(09:00-11:00)
(12:30-15:00)
64銘柄

指値
成行

・東京証券取引所のベンチャー企業向け市場です。
マザーズでは、「時価総額10億円以上」を上場基準とし、利益基準や純資産基準は設けていません。
情報開示規定として四半期ごとの決算と会社説明会を義務づけるだけの緩い基準です。
・マザーズの特徴として、成長性(成長する可能性の高い企業)、流動性(公募・株主数・時価総額の基準を満たす企業)、迅速性(上場審査期間の短縮)、透明性(四半期毎の業績開示、公開後3年間は会社説明会を年2回以上行う)の4つがあります。
◇オークション銘柄
・板寄せ方式

売買方式比較

売買方式 説明
板寄せ方式 マザーズやヘラクレスなどの取引所銘柄とJASDAQのオークション銘柄の売買方式で、市場1・2部で行われてる売買方式と同じです。
注文を受けながら気配値を更新していく、価格優先~ 時間優先による競争売買をいいます。
マーケットメイク方式 JASDAQのマーケットメイク銘柄の値付け方法です。
特定の証券会社(マーケットメイカー)が仕切形式で売買を行う方式(最良気配板寄せ方式)で、自分が希望価格を提示してもマーケットメイカーがその値段に応じない場合もあったり、制限値幅がないのが特徴です。
ダッチ方式 JASDAQのオークション銘柄が新規上場する時の初値のつけ方で、買い注文と売り注文を集め、双方の注文が最も集中する価格を初値として午前11:00に決定されます。前場一本値のみとなります。

ストックオプション(潜在株式)の恐怖(事例研究)

エフェクター細胞研究所に学ぶ

日付 始値 高値 安値 終値 出来高 備考
 上場日  3月29日 売り気配のまま取引不成立 0  
 2日目  3月30日  240,000  248,000  200,000  210,000 15,662 初値
 3日目 3月31日 209,000 209,000 180,000 188,000 5,666  
 4日目 4月1日 188,000 195,000 185,000 186,000 3,957  
 5日目 4月4日 186,000 186,000 166,000 179,000 4,573 株価最安値
 6日目 4月5日 180,000 182,000 170,000 174,000 2,878  
 7日目 4月6日 175,000 197,000 171,000 194,000 4,034 大引け後ロックアップ発表
 8日目 4月7日 197,000 206,000 186,000 189,000 3,999  

売り殺到で上場2日目にやっと初値

ニッポン放送への敵対的買収を仕掛けたライブドア・グループのライブドア証券が初主幹事で注目された、エフェクター細胞研究所(4567・名セ・1株、公開株数 19,500株、公募38万円)が、2005/3/29に上場しましたが、売り殺到で上場2日目に24万円でやっと初値をつけました。

後場にはブックビル仮条件の下限 22万円をも割り込んで、ストップ安の20万円まで急落、上場3日目には18万円と公開価格の1/2以下まで下落する低落ぶりを見せています。IPO銘柄としては異例の展開です。何故こんなことが起こったのでしょうか?この低落の原因は何だったのでしょうか?

  1. 取得単価の低いストックオプション(新株予約権)が発行済株式総数の約 5割(※1)と大量にあること
  2. 上場直後に売却可能であるベンチャー・キャピタルの保有株比率が約 2.3割(※2)と高いこと
  3. 「バイオベンチャーの上場最低条件」をクリアしていないのではとの懸念
  • ※1:上場時の発行済株数は 98,050株ですが、開示書類「株主の状況」をみると事前に役員、従業員全員に大量に発行されたストックオプションの潜在株式が 50,040株(上場時発行済株数の51%)も存在します。この内、上場日に行使可能なものが 11,900株、4/1に 1,000株、4/9以降可能なものが 31,800株あります(行使価格1万円:公募価格の1/40)。

  • ※2:VC株総数30,400株。公募売出分7,500株を除くと22,900株(上場時発行済株数の23%)。

(2005.04.09追記)上場7日目(4/6)後場から株価が急上昇しました。何故?と思ってましたが原因が判明しました。開示書類「役社員等保有ストックオプションの権利行使による取得株式の継続保有(ロックアップ)措置について」(2005.04.06大引け後発表)です。

役員や社員にストックオプションのロックアップを要請するとの内容です。4/9以降権利行使可能なもの 31,800株の内 28,690株にロックアップを要請(3,110株は除外)、上場後にロックアップが実施されるのは聞いたことがありません。
低迷してた株価が、発表前の後場から急上昇するのも何か不自然さが残ります。

事例から学ぶこと

  • ロックアップがかかっていないインサイダー(VCや大株主)による大口売りが公開直後に集中するのではという懸念

  • 4月9日から3万株強のストックオプションの売却が可能になることの警戒感(株価はSOにサヤ寄せする)

  • ストックオプションが全て行使された場合には1株益から計算される理論株価が現在の半分の水準になる

などから嫌気されたとみるべきでしょう。

3/31の時点での累積出来高は21,328株で、公募売り出しの合計となる19,500株が1回転した計算となりますが、4/1の出来高を見ると積極的に押し目買いを入れる動きがみられません。

目論見書の重要性

ライブドア証券が主幹事として、1万円のストックオプションが大量にあることに疑問を持たず38万円の公募価格のまま突き進んだことは、目論見書に記載があるとはいえ個人投資家を嵌め込むような姿勢に疑問が残ります。

今のIPOブームでは大多数の個人投資家は目論見書を精査せずブックビル仮条件の上限 38万円で応募したのではと思われます。

市場関係者からは

市場関係者からも「引き受けベースで暗黙の了解となっている“バイオベンチャーの上場最低条件”さえクリアしておらず証券取引所のモラルが問われる」といった厳しい声も聞かれていたのに、名証所の上場審査は適正だったのでしょうか。

東京の会社なのになぜ名証セで公開するのでしょう?東証マやJASDAQでは公開出来なかったのでしょうか。

1万円で買える株は市場でも、上場のための辻褄合わせの売上高ではなく実態の売上高(数千万規模)に見合った株価設定であるべきと思います。

ストックオプションの怖さ

本来ストックオプションは業績を上げ、さらに頑張ってもらうため社員にインセンティブとして付与するもの、取得単価の安いストックオプションを社員全員に大量に発行し、業績(利益)がマイナスのこの時期に上場するのは何かの意図を感じざるを得ません。

初値24万円で権利行使できた社員(平均保有240株=5,760万円を手にした)は笑が止まらないのでは・・・。この金額は結果的には投資家が負担、ということになりました。

IPOの仕組みと応募方法、新規公開株の売買ルールなどはこちらを参照してください。
http://stock.kikuchisan.net/ipo.html

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